
写真の代わりに、「刺繍」で残す旅風景。
こんにちは、年中旅に出たくて堪らないオザミサです。
今回は、旅先の風景を切り取った刺繍「Sew Wanderlust」という
シンガポール出身のアーティスト Theresa Limさんの作品をご紹介。
"Wanderlust"とは、色々な場所へ旅したいという気持ちのこと。
旅をしているときのドキドキした感情を刺繍糸で縫い繋いでいく・・・。
そんなタイトルなのかなと、作品を見ていて感じます。




見ていて面白いのは、刺繍の作品そのものだけでなく、
その後ろにある風景や持っている手の服の袖、マニキュアの色・・・
すべて揃って一つの作品になっているところ。
そういった細やかなところが、とてもステキです。
この作品が作られたキッカケは、作者であるTheresa Limさんが、
旅先で写真を撮ろうとしたときに携帯電話のバッテリーがなかったこと。
多くの人はそこで諦めてしまいますが、
彼女は布きれを取り出して写真の代わりにその場面を刺繍におこしたそうです。
彼女は、それから旅先や故郷であるシンガポールの街並みを刺繍で切り取っていきました。
一瞬で切り取ることができる写真に比べ、刺繍にかかる制作時間は2時間ぐらい。
旅行先で過ごす2時間って、結構大きいですよね。
刺繍をしながら、その場所の空気をゆっくり焼き付けているのかもしれません。
旅行にいっても写真を撮ることに夢中になるあまり、じっくり見て感じていたかな?
私もこの作品のように、ちゃんと立ち止まって全身で感じたい!と思えてきます。

一番制作が難しかったのはベルリンにあるホロコースト慰霊碑の刺繍だそうです。
他の作品とは違って、この場所の独特の「静寂さ」が伝わってこないでしょうか。
ユダヤ人犠牲者のための記念碑であるこの場所は、広い敷地に無機質なコンクリートのブロックが並びます。
他の刺繍に比べて単純な形ですが、幾何学模様に続くモニュメントを刺繍にするのは、見た目以上に大変だったそう。
私も5年以上前ですが、この場所に足を運んだことがあります。
規則正しくあるようで、実際に足を踏み入れると地面は波打っていて歩きにくいし、
一つ一つモニュメントの高さが違うと気づきます。
歩いていると、まるで抜け出せない迷路にいるような不安な気持ちになったことをよく覚えています。
単純なようでどこか複雑に交差された場所だったからこそ、制作が難しかったのかもしれません。
とても魅力的な作品ですが、
刺繍といえば皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか?

彼女が刺繍を扱って制作活動を行う理由のひとつは、
刺繍が「保守的な女性」の描写に昔から使われてきた背景にあるから。
彼女にとって刺繍をつかったアート活動は、ジェンダーの問題に立ち向かうためのモノなのです。
確かに、最近では刺繍のワークショップや男性アーティストのステキな作品も多く、
昔ながらのイメージが少なくなってきているとは思います。
しかし「女性のもの」というイメージは、根強いかもしれません。
(それが良いか悪いかは別として)
私も難しいことは分かりませんが、
彼女のそういったバックボーンも含めてこの作品や他の作品を見ていくと、
違った発見があるのではないでしょうか。
◆参照元
CNN
My Modern Met
◆箱庭キュレーター

オザミサ|マルマル。
箱庭のガッコウ1期生。長崎県出身。
動画を扱った仕事をしているからか、普段から動画撮影したり作品を見ることが大好き。
また卒業生とキュレーションサイト「マルマル。」を運営しています。