

古川誠さん(ふるかわまこと)
1998年スターツ出版入社。販売部を経て2002年より「オズマガジン」編集部在籍。2008年より「オズマガジン」編集長、2009年より「オズマガジン TRAVEL」(現オズマガジンTRIP)編集長兼任。自社小説投稿サイト「Berry's Cafe」にて「りんどう珈琲」という連作小説を掲載。趣味は読書、スニーカー収集、ビーチコーミング。
中尾友子さん(なかおともこ)
旅行雑誌の編集部を経て、2006年スターツ出版入社。現「オズマガジン」編集部デスク。雑誌のコンセプト"日常をていねいに"を読者と直接会ってシェアする「ていねいSHARE PROJECT」にて、毎月各地でのイベントを企画・運営中。いつか手掛けたい特集は東北、好きな旅先は離島。最近ウイスキーに目覚めつつある。
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オズマガジン11月号

オズマガジン TRIP
今回お話を伺ったのは、雑誌「オズマガジン」編集長の古川誠さんと、編集部デスクの中尾友子さん。情報過多な現代社会の中で、"日常をていねいに"過ごすことの大切さを教えてくれる「オズマガジン」は、箱庭メンバーが大好きな雑誌でもあります。制作秘話から編集者としての想いまで、盛りだくさんでお届けします!
箱庭(以下:h):まずはお2人の自己紹介をお願いします!
古川さん(以下:古):僕は現在、月刊誌「オズマガジン」と、増刊「オズマガジンTRIP」の編集長を兼任しています。本誌のほうでは、旅、雑貨、アートなど毎月色んなテーマを通じて、コンセプトである"日常をていねいに"過ごすことを提案しています。また、最近は誌面制作だけでなく「ていねいSHAREプロジェクト」という立体展開としての活動も始めました。h:「ていねいSHAREプロジェクト」は、どんな活動ですか?
古:"日常をていねいに"というコンセプトを、誌面以外の場所で読者と共有するイベントプロジェクトです。つまり、場づくりですね。書店で読者を待っているだけでは会う機会が少ないので、ならばコンセプトに共感してくれる方々とイベントを開いて、そこに読者にも参加してもらおうと。このプロジェクトは、主に中尾が担当してくれています。中尾さん(以下:中):"六本木アートカレッジでトークイベントを行ったり、ワインバルでテイスティングイベントを開いたり...10月は高知県で土佐和紙の紙漉き体験イベントも行います。規模の大小はありますが、今まで2500名ほどの方に参加していただきました。
h:イベントではどんなことを行うんですか?
中:ワインのテイスティングイベントでは、ワイナリーの責任者の方をゲストに招き、読者の皆さん、編集部員、そしてご協力いただいたクライアントさんがワインを飲みながらお話を聞くというものでした。一般的なトークイベントって、ゲストが壇上から話すイメージだと思うんですけど、私たちはそこにいる全員が「同じ地平に立つこと」を大事にしたくて。なので、編集部員も読者も、クライアントもみんな同じカウンターで乾杯してトークを楽しみました!h:わっ楽しそう!誌面でもレポートやスケジュールを載せているんですね。
古:はい。現在「オズマガジン」の表2(表紙の裏)と巻頭前に、「ていねいSHAREプロジェクト」の情報を掲載しています。実は、雑誌の中で一番広告費が高いのは表2や表4などと呼ばれる表紙周りなので...正直、最初は迷ったんですよね。広告収入が重要な柱である雑誌にとって、一番大事な場所ですから(笑)。でも一番大事な場所だからこそ、僕らが伝えたいことを掲載したいなと。中:雑誌として今後生き残っていく中で、私たちは"読者参加型"がカギだと感じていて。アイドル風に言うと、「会いに行ける雑誌」ですね(笑)。雑誌は、今まで誌面だけでの展開でした。でも、今は雑誌を持っている人よりも、スマホを持っている人のほうが多かったりと、社会が日々変化している。それを無視することはできません。雑誌も少しずつ、進化する必要があると思っています。
古:社会の変化という点で言うと、「オズマガジン」は現在74%縮小したミニ版も発行しているんですけど、実はこれiPadと同じサイズなんです。ライフスタイルの変化の一つとして、今情報を得る端末がどんどん小さくなっていますよね。テレビからパソコン、パソコンからスマホというように。人々にとって情報を得やすいサイズを考えたら、タブレットサイズがちょうど心地いいんじゃないかと。あとは、もう一つ理由があって、女性のバッグにA4サイズって収まりにくいんですよ。書店で雑誌を買っても、バッグに収まらないと不便だったりして。特にエリア特集の号だと、雑誌を片手にお出かけしたいという方もいるはずで。そういう読者のライフスタイルに合わせてミニ版をつくりました。
中:決して雑誌を小さくしたいわけではなくて、大小の選択肢を提示して読者に選んでもらいたい。今年の鎌倉特集号でトライアルとして始めたんですが、この時はミニ版のほうが売れました。

h:そんな理由があったとは!イベントやミニサイズ版など、既存のものをどう発展させていくかというのは、これからの雑誌業界にとって大切な課題ですね。
古:「箱庭」もWEBメディアで情報発信しつつも、イベントやワークショップなどリアルへの展開も積極的に行っていますよね。私たちもそういった多角的な視点を大事にしていきたいなと思っているんです。そういった、メディアを軸にした多角展開という部分でも、旅やアートが好きという部分でも、「箱庭」とは色々共通する部分が多そうです。h:そうですね。親和性が高いなって私たちも勝手に思ってました(笑)。「オズマガジン」の特集テーマって毎回ツボで。毎月、特集はどうやって決めているんですか?
古:特集テーマは、編集部と販売部で話し合って決めています。「今、世間ではこういうのがキテる!」とか、販売部から意見が挙がることもあるので。あと、3月は「横浜」、4月は「鎌倉」、9月は「銀座」など、毎年このシーズンはこの特集をやる!とある程度決めているものもありますね。"日常をていねいに"という媒体コンセプトは大前提ですが、今世間はどういうムードなのかということも踏まえて特集テーマを考えるようにしています。内容に関しては、編集部員みんながアイデアを持ち寄って決めます。
h:毎年決まっている特集は、過去のものとどう差別化を?内容がかぶったりしないのかなって。
古:切り口を変えれば色んな見せ方は可能です。例えば「銀座」とひと言で言っても、毎年表情がすごく変わるんですよ。数年前は外国人旅行者が多かったけど、震災後に人が少なくなって、ここ数年でまた人が増えてきていたり。あと、銀座は高級な印象が強いですけど、実はファストファッションも充実していてカジュアルな側面があったり。その時の街のムードを読みながら、ですね。最初はやっぱり仮説でしかないので、それを確かめるために、実際に街を歩いて空気を読むようにしています。中:あと、銀座などエリアを特集する時は、その立ち位置を俯瞰で見ることも意識しています。例えば東京の西側に住んでいる人は、銀座じゃなくて、近くて施設も充実している新宿&渋谷を選ぶことが多いと思うんですけど、それでも「新宿じゃなくて銀座!」と言われるためにはどうすればいいかな?と考えたりします。そういう視点で考えると、その街の特性や他のエリアにはない魅力が見えてくるんです。

h:それでも、中にはきっと「銀座じゃなくて絶対に新宿!」という人もいますよね。
中:そうですね。例えば、京都や鎌倉は誰もが"自分ごと化"しやすいエリアだと思うんですよね。「みんなの京都」「みんなの鎌倉」のように、国民的スポットというか。銀座も昔はそうだったと思うんですけど、今はそうじゃない。興味がある人&まったくない人が極端に分かれているなと感じます。古:街は、生き物みたいだと思います。「オズマガジン」にとって銀座は思い入れがある土地ですし、「銀座」特集をやれば絶対に当たる、というくらい読者からの支持も高かった。でも、キラーコンテンツだった「銀座」特集も、ここ近年はその年によって反応が全然違う。それはやっぱり、ムードに左右されるところが大きいですね。
h:"ムード"っていうのは?
古:目には見えないけど、何となく世間に漂っている空気というか。ぼんやりとした潜在意識って、誰もが持っていると思うんです。例えば、ルミネ有楽町店がオープンした年は、首都圏在住のみんなが潜在意識のどこかで、銀座周辺に注目していたと思うんですよね。電車の中吊りや駅のポスター、テレビからオープンするという情報が入ってくると、「すごく行きたい!」とまではいかなくても、「何か気になるな」くらいの意識は芽生える。そうやって、みんなが頭のどこかで銀座を気にしているという世間のムードって、雑誌の反響にも影響するんです。
h:街って奥深いですね。お2人が今注目している街はありますか?もしくは、個人的に好きな街とか。
古:僕は東東京。馬喰町、蔵前、浅草あたりが好きですね。何より、平日に人が少ないのがいい!中:古川さんは、ひとり行動が結構好きですよね(笑)。
古:そう、ひとりも大好き(笑)。あの辺りは、歩いていて心地いいんですよ。御徒町に「Coquette(コケット)」というバッグ屋があるんですけど、僕はそこが大好きで。上質なバッグはもちろんですが、デザイナーさん自身もすごく素敵な方で。そういった職人さんたちが丁寧な手仕事をしている空気感が、街全体に表れているなぁと感じます。あと、最近は青森とか秋田とか、北のほうによく行っていて、その地方にも注目しています。根付いている文化や人柄が興味深いし、それに人が少なくて静か。
中:やっぱり、ひとり時間が好きなんですね(笑)。私は2つあります。まず1つ目は渋谷。「オズマガジン」では長らく、渋谷特集をしていないんですけども。渋谷って"最新""先端"っていうイメージが強い街なんですけど、古きものを大事にする側面もあって。例えば渋谷駅周辺。すべて壊してゼロからつくり直すんじゃなくて、東横線の旧駅舎のように今まであったものを活かしながら進化するという意味では非常におもしろいです。2つ目は、福岡。女性誌ではあまり特集されないんですけど、食も人もモノも、すごく質が高くてとにかく元気をくれる街です。そして、私の故郷(笑)。いつか「オズマガジン」で福岡特集ができたらと、密かに企んでいます。
